「入籍」ということばの中身
婚姻届を出すと、戸籍に何が起きるか
最終更新 2026.08.09約11分出典8件法令8
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婚姻届を出した日のことを、多くの人が「入籍しました」と言います。私たちもそう言いますし、通じることばです。
ただ、戸籍法を開いてみると、実際に起きていることは少し違います。婚姻の届出があったときは、夫婦について新戸籍を編製する。 条文にはそう書かれています[1]。初婚どうしで、それぞれ親の戸籍にいるなら、どちらかの戸籍に入るのではなく、ふたりの戸籍が新しく一つ作られるわけです。
ことばの正しさを競いたいわけではありません。ただ、戸籍で何が起きているかを知っておくと、婚姻届の記入欄が急に読めるようになります。「新しい本籍」「夫婦が称する氏」。あの欄が何を決めているのか、腑に落ちます。
戸籍法の条文だけを材料に、順に見ていきます。届出の手順そのものは婚姻届の出し方の記事にまとめてあるので、ここでは戸籍の側だけを扱います。
「入籍」しているのは、実はそんなに多くない
戸籍法第16条は、こう始まります。婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する。 ただし書があって、夫の氏を称する場合に夫が、妻の氏を称する場合に妻が、すでに戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りではありません[1]。
そして、そのただし書に当たる場合には、夫の氏を称する妻は夫の戸籍に入り、妻の氏を称する夫は妻の戸籍に入ると続きます[1]。この「入る」ほうが、ことばどおりの意味での入籍です。
つまり、こういうことになります。
- 初婚どうしで、ふたりとも親の戸籍にいる → 新しい戸籍が作られる(=入籍ではない)
- 相手がすでに自分の戸籍の筆頭者で、その氏を称する → その戸籍に入る(=入籍)
日本人と外国人の婚姻の場合も、その日本人について新戸籍を編製する定めがあります(すでに筆頭者である場合を除く)[1]。
ですから、「入籍しました」という言い方は、多くの場合、実態より少しだけ控えめです。ほんとうは、ふたりの戸籍がひとつ、新しくできています。
新戸籍が編製される
- ふたりとも親の戸籍にいる場合(初婚どうしの多く)
- ふたりのための戸籍が、新しく一つ作られる
- 氏を称するほうが、筆頭に記載される
- 本籍は、届書の「新しい本籍」欄で決める
既にある戸籍に入る
- 相手がすでに戸籍の筆頭者で、その氏を称する場合
- 新しくは作らず、その戸籍に入る
- 本籍は、その戸籍のもののまま
- こちらが、ことばどおりの「入籍」
戸籍法第16条。どちらの場合でも、婚姻の効力に違いはありません。
親の戸籍からは、必ず出ます
新しい戸籍が作られるということは、裏返すと、親の戸籍からは出るということです。ここは選べません。
戸籍法第6条が、戸籍の作り方をこう定めているからです。戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに編製する[2]。
読み替えると、一つの戸籍に入れるのは、一組の夫婦と、その子までです。 親夫婦と、結婚した子の夫婦が同じ戸籍に並ぶことはできません。同居していても、二世帯住宅でも、家業を継いでも、戸籍は分かれます。
「親の戸籍から抜ける」という言い方をされると、少しさびしく聞こえることがあります。でも、これは制度上の作りかたの問題です。戸籍が分かれても、親族であることは何も変わりません。 親子は一親等の血族のままですし、扶養も相続も戸籍の枚数では動きません。
ちなみに、婚姻をしていない人については、その人と氏を同じくする子ごとに編製する定めもあります[2]。戸籍は「家」ではなく、夫婦と子の単位で作られている、というのがこの条文の骨格です。
「筆頭者」は、えらい人ではありません
婚姻届を書いていると出てくる「筆頭者」という欄。世帯主のことだと思われがちですが、別のものです。
戸籍法第9条は、こう定めています。戸籍は、その筆頭に記載した者の氏名及び本籍でこれを表示する。 そして、その者が戸籍から除かれた後も、同様である[3]。
つまり筆頭者は、その戸籍を探し当てるための見出しです。図書館の背表紙のようなもので、権限とも上下とも関係ありません。しかも「除かれた後も同様」なので、亡くなったあとも表示は変わりません。索引としては、そのほうが便利だからです。
誰が筆頭になるかも、条文が決めています。氏名を記載する順序は、第一に夫婦が夫の氏を称するときは夫、妻の氏を称するときは妻、第二に配偶者、第三に子[3]。つまり、選んだ氏のほうが自動的に先頭に来るだけで、話し合って決めるものではありません。子どもは出生の前後の順に、戸籍を作ったあとに入る人は末尾に記載されます[3]。
「筆頭者になったほうが立場が上」という話を聞くことがありますが、条文にそういう定めは見当たりません。見出しの一行です。
意味すること
- 戸籍を表示するための見出し(氏名+本籍)
- 選んだ氏のほうが自動的に先頭になる
- 戸籍から除かれた後も、表示は変わらない
- 戸籍証明書を請求するときの手がかりになる
意味しないこと
- 世帯主であること(住民票の話で、別の制度)
- 扶養する側であること
- 家庭内の立場や決定権
- 話し合って決めるもの
戸籍法第9条・第14条。
新しい戸籍に、何が書かれるのか
作られる戸籍には、本籍のほか、戸籍にいる各人について次の事項が記載されます[4]。
- 氏名
- 氏名の振り仮名
- 出生の年月日
- 戸籍に入った原因および年月日
- 実父母の氏名および実父母との続柄
- 養子であるときは、養親の氏名および養親との続柄
- 夫婦については、夫または妻である旨
- 他の戸籍から入った者については、その戸籍の表示
- そのほか法務省令で定める事項
二番目の氏名の振り仮名は、比較的新しく入ったものです。読み方は「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているもの」でなければならないという定めもあります[4]。この制度の経緯と、ふたりが何をする必要があるかは戸籍のふりがなの記事にまとめました。
四番目の「戸籍に入った原因および年月日」に、婚姻の日が入ります。ふたりの戸籍のいちばん最初の一行が、婚姻届を出した日ということになります。
本籍は、住んでいる場所と別に決められる
新しい戸籍を作るということは、本籍を新しく決めるということでもあります。婚姻届に「新しい本籍」を書く欄があるのは、このためです。
本籍は、住んでいる場所と同じである必要はありません。どちらかの実家の住所にする人もいれば、ふたりの新居にする人も、思い入れのある土地にする人もいます。あとから変えることもできて、転籍の届出で他の市区町村へ移せます[5]。
決めるときの目安をひとつだけ挙げるなら、あとで戸籍証明書を取る場面を思い浮かべることでしょうか。パスポート、相続、各種の届出。取りに行く手間が変わることがあります。とはいえ、いまは請求のしかたも変わってきているので、ここを重く考えすぎる必要はありません。
ちなみに、他の市区町村へ転籍するときは、戸籍の謄本を届書に添付する定めになっています[5]。ここは婚姻届とは扱いが違うところです。
氏を変えるのに、家庭裁判所が要らない数少ない場面
もうひとつ、婚姻届の欄の意味が変わって見える話をひとつ。
民法は、夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称すると定めています[8]。婚姻届に「夫婦が称する氏」の欄があるのは、この「婚姻の際に定める」を書面でするためです。
一方、婚姻とは関係なく氏を変えたいときは、こうなります。やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者およびその配偶者が、家庭裁判所の許可を得て届け出なければならない[7]。
並べてみると、落差があります。婚姻のときは届書の欄に書けば決まり、それ以外のときは家庭裁判所の許可が要ります。氏を選べる場面は、制度のなかでかなり限られているということです。
だから、氏をどうするかは「あとで考える」に向いていません。急かしたいわけではなく、そういう作りの制度だと知ったうえで話したほうが、落ち着いて決められると思うからです。どちらの氏にするかは、ふたりで決めていいことですし、決めるのに理由も要りません。
だからあの欄は、空欄では出せません
ここまでを、婚姻届の紙の上に戻します。
戸籍法第74条は、婚姻をしようとする者は夫婦が称する氏などを届書に記載して届け出なければならない、と定めています[6]。第一号に挙がっているのが、この欄です。ふたりの戸籍がどう作られるかが、ここで決まるからです。
そして民法は、婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずるとしています[8]。式でも指輪でもなく、あの一枚が受理された瞬間が起点です。
書き終えたら、あとは窓口に出すだけです。何が起きるかは、もう分かっています。
- 1
1. 届書の「夫婦が称する氏」で、筆頭者が決まる
選んだ氏のほうが、新しい戸籍の先頭に記載されます。話し合って順番を決めるものではありません。
- 2
2. 新しい戸籍が編製される
どちらかの戸籍に入るのではなく、ふたりのための戸籍が一つ作られます。本籍は届書で決めたところ。
- 3
3. それぞれ、親の戸籍から除かれる
一つの戸籍に入れるのは一組の夫婦とその子まで。戸籍は分かれますが、親族であることは変わりません。
- 4
4. 最初の一行に、婚姻の日が入る
「戸籍に入った原因及び年月日」として記載されます。ふたりの戸籍の、いちばん最初の記録です。
新戸籍が編製される場合の流れ(戸籍法第16条の本文にあたるケース)。
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よくある質問
- 「入籍しました」と言うのは、間違いですか。
- 日常のことばとしては、まったく問題ありません。通じますし、直す必要もないと思います。制度の側の話をすると、婚姻の届出があったときは夫婦について新戸籍を編製するのが原則で、相手がすでに戸籍の筆頭者でその氏を称する場合に限って、その戸籍に入る形になります[1]。つまり初婚どうしなら、多くの場合は「入る」ではなく「作られる」ほうです。
- 親の戸籍に残ったままにはできませんか。
- できません。戸籍は、本籍を定める一組の夫婦とこれと氏を同じくする子ごとに編製すると定められているためです[2]。親夫婦と、結婚した子の夫婦が同じ戸籍に並ぶことはできない作りになっています。ただ、戸籍が分かれても親子は一親等の血族のままで、扶養や相続の関係が変わるわけではありません。
- 筆頭者は、どちらがなるのがいいですか。
- 選べるものではありません。戸籍法は、氏名を記載する順序を、第一に夫婦が夫の氏を称するときは夫・妻の氏を称するときは妻、第二に配偶者、第三に子と定めています[3]。つまり「夫婦が称する氏」を決めた時点で、筆頭者も自動的に決まります。筆頭者は戸籍を表示するための見出しなので[3]、立場や権限とは関係ありません。
- 本籍はどこにすればいいですか。
- 住んでいる場所と同じである必要はありません。実家、新居、思い入れのある土地。どれも選べます。あとから転籍の届出で他の市区町村へ移すこともできます(他の市区町村への転籍には戸籍の謄本の添付が必要です)[5]。決めかねるときは、あとで戸籍証明書を取る場面を思い浮かべて選ぶ人が多いところです。
出典
数字は公開された一次情報から。公的統計・法令の公的解説と、民間調査を区別しています。
- [1]e-Gov法令検索「戸籍法」(昭和22年法律第224号)第16条(婚姻の届出があつたときは夫婦について新戸籍を編製する/筆頭者である場合はその戸籍に入る/日本人と外国人との婚姻の場合)法令・制度1947
- [2]e-Gov法令検索「戸籍法」(昭和22年法律第224号)第6条(戸籍は市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに編製する)法令・制度1947
- [3]e-Gov法令検索「戸籍法」(昭和22年法律第224号)第9条(戸籍は筆頭に記載した者の氏名及び本籍で表示する・除かれた後も同様)、第14条(氏名を記載する順序)法令・制度1947
- [4]e-Gov法令検索「戸籍法」(昭和22年法律第224号)第13条(戸籍の記載事項=氏名・氏名の振り仮名・出生の年月日・戸籍に入つた原因及び年月日ほか/振り仮名は一般に認められている読み方であること)法令・制度1947
- [5]e-Gov法令検索「戸籍法」(昭和22年法律第224号)第108条(転籍・新本籍を届書に記載/他の市町村に転籍する場合は戸籍の謄本を添附)法令・制度1947
- [6]e-Gov法令検索「戸籍法」(昭和22年法律第224号)第74条(婚姻の届出・第1号に「夫婦が称する氏」)法令・制度1947
- [7]e-Gov法令検索「戸籍法」(昭和22年法律第224号)第107条第1項(やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは家庭裁判所の許可を得て届け出る)法令・制度1947
- [8]e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第750条(夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称する)、第739条(婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって効力を生ずる)法令・制度1896
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数字は、厚生労働省の人口動態統計などの公的統計と、公開された民間調査の一次情報に基づく目安です(各ページ末尾に出典を明記しています)。地域・会場・時期によって幅があるので、最後はふたりのペースで読み替えてください。