撮ったあとに、効いてくる話
結婚式の写真と動画は、誰のものか
最終更新 2026.08.09約12分出典10件法令10
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準備の話は当日で終わりますが、写真と動画だけは、そのあと何十年か手元に残ります。だから契約書のなかで、いちばん先を見ている条項でもあります。
ところが、ここは思い込みがいちばん多いところでもあります。「撮影料を払ったのだから、写真は自分たちのもの」。とても自然な感覚ですが、著作権法の建てつけはそうなっていません。文化庁の解説には、はっきりこう書かれています。著作物の創作を委託した場合は、料金を支払ったかどうか等にかかわりなく、実際に創作した「受注者側」が著作者となります[7]。
驚かせたくて書いているのではありません。これを知っていると、契約前に聞くことが二つ三つに絞れて、あとがずっと楽になるからです。条文と、文化庁が出している解説だけを材料に、順に見ていきます。
「お金を払った人」と「著作者」は、別のことば
著作権法でいう著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です[1]。何がこれに当たるかは条文が例示していて、そのなかに写真の著作物も映画の著作物も並んでいます[1]。そして著作者は、その著作物を創作した人。この二つは、お金の流れとは切り離して決まります。
しかも権利の発生に手続きは要りません。著作権法は「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない」と定めています[1]。登録も申請も届出もなく、シャッターを切った瞬間に、撮った人に権利が生まれます。
だから、結婚式の写真をめぐる関係は、こう整理できます。ふたりは被写体であり、発注者であり、費用の負担者だけれど、著作者ではない。 手元にデータがあることと、権利を持っていることは別々の話です。
言い方を変えると、ふたりが手にするのは「権利そのもの」ではなく、契約でもらった範囲ということになります。その範囲が何かは、次の節で見ます。
ふたり(発注した側)
- 撮影を依頼し、料金を払う人
- 写真に写っている人(被写体)
- 納品されたデータを受け取る人
- 使える範囲は、契約で決まる
カメラマン(撮った側)
- シャッターを切った瞬間に著作者になる
- 登録も申請も要らない(無方式主義)
- 複製権・公衆送信権などを持つ
- 人格権は、譲ることができない
「データを全部もらいます」の中身は、譲渡か、許諾か
見積書に「データ買い取り」「全データ納品」と書かれていることがあります。これは金額の話であって、権利の話ではありません。権利の側には、性質のまったく違う二本の道があります。
ひとつめは、譲渡。 著作権は全部または一部を譲り渡せます[2]。譲り受ければ、ふたり自身が権利者になります。ただし条文には落とし穴のような一項があって、譲渡の契約で翻案権など(第27条・第28条の権利)が譲渡の目的として特掲されていないときは、譲った側に留保されたものと推定するとされています[2]。つまり「著作権を譲渡する」とだけ書いた契約では、写真を大きく作り変えて使う権利は、相手に残っていると推定されます。
ふたつめは、許諾。 著作権者は他人に利用を許諾でき、許諾を得た側は「その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において」利用できます[3]。範囲の外は、含まれていません。年賀状はよくて広告はだめ、といった線引きはここで引かれます。
そしてどちらの道を通っても、著作者人格権だけは動きません。条文が「著作者の一身に専属し、譲渡することができない」と定めているからです[3]。名前を出す・出さない、勝手に改変されない、といった部分は、譲渡契約を結んでも撮った人のところに残ります。
だから契約前に聞くのは、金額ではなくこの一行です。「これは譲渡ですか、それとも許諾ですか。許諾なら、使っていい範囲はどこまでですか」。
譲渡(第61条)
- ふたりが著作権者になる
- 全部でも一部でもよい
- 第27条・第28条の権利は、契約書に書いていないと譲った側に残ると推定される
許諾(第63条)
- 権利者はカメラマンのまま
- 使えるのは、許諾された方法と条件の範囲内
- 範囲の外(商用・第三者への提供など)は、あらためて相談
どちらの場合も、著作者人格権は撮った側に残ります(第59条)。
式場を通して頼んだときは、聞く相手が変わることがある
会場提携の撮影を申し込んだとき、実際にカメラを持って立っているのが誰なのかは、外からは見えません。ここで効いてくるのが、職務著作という決まりです。
著作権法は、法人などの発意にもとづき、その業務に従事する者が職務上つくった著作物で、法人などの名義で公表するものは、契約や勤務規則に別段の定めがない限り、その法人などが著作者になると定めています[4]。文化庁の解説は、この要件を五つに分けて示しています[8]。
- その著作物をつくる企画を立てるのが法人などであること
- 法人などの業務に従事する者が創作すること
- 職務上の行為として創作されること
- 公表する場合に、法人などの著作名義で公表されるものであること
- 契約や就業規則に「職員を著作者とする」という定めがないこと
要件をすべて満たせば著作者は会社、満たさなければ撮った本人です。会場と契約している撮影会社の社員なのか、その会社から委託を受けたフリーランスなのかで、答えが変わります。
ふたりがこれを見分ける必要はありません。 見分けるのは、聞き方のほうです。「あとで写真の使い方を相談したくなったら、窓口は会場ですか、撮影会社ですか、カメラマン本人ですか」。一言で済みますし、当日を撮ってもらう前に聞いておけば、角も立ちません。
ゲストがスマホで撮った一枚も、著作物です
ここは見落とされがちですが、著作物になるのに立派さは要りません。文化庁の解説は、経済的な価値を伴って利用されないと意識しづらいとしたうえで、手紙やスマートフォンで撮影した写真など、日常生活で作成したものも、定義さえ満たせば著作物となると書いています[7]。
つまり、二次会でゲストが撮った一枚も、親御さんがテーブルから撮った一枚も、撮った本人に権利があります。集めて一冊のアルバムにするときも、ウェブに載せるときも、理屈のうえでは同じ話が起きます。
とはいえ、ここで契約書を配る人はいません。実際に効くのはもっと軽い一手で、集めるときに使い道を伝えておくことです。
- 「あとで新婚旅行のときに、みんなに配るアルバムにまとめます」
- 「お礼状に一枚だけ使わせてもらうかもしれません」
- 「SNSには上げないので、安心して送ってください」
写真を集める場所(共有アルバムでも、メッセージアプリのグループでも)の入口に一行あるだけで、あとから確認して回らずに済みます。声をかけるのは、断られるためではなく、気持ちよく預けてもらうためです。
SNSに上げるのは、法律のことばだと「公衆送信」
手元のデータをどう扱うかで、いちばん相談が多いのがここです。順に置くと、こうなります。
著作権法は、著作者が著作物を複製する権利を専有すると定め(複製権)、あわせて公衆送信を行う権利も専有すると定めています(公衆送信権)[5]。プリントすれば複製、インターネットに上げれば公衆送信です。
一方で、私的使用のための複製という例外があります。ただし条文の範囲は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」と書かれていて、思っているより狭いところに線が引かれています[6]。文化庁の解説は、この要件を「限られた範囲内での使用を目的とすること(仕事での利用は対象外)」「使用する本人が複製すること」と噛みくだいています[9]。
条文が想定しているのは、このくらいの範囲です。配る先や部数が広がっていくと、内か外かは変わり得ます。誰でも見られる状態にアップロードするのは、そもそもこの例外の話ではなくなります。
だから、SNSに上げたいなら、契約の側で先に確保しておくのが早道です。「webやSNSへの掲載は含まれますか」。含まれるなら、たいていは条件(加工の可否、クレジット表記など)がついています。それも一緒に聞いておくと、当日に迷いません。
写る人の側の話。肖像権は、条文に書かれていない
ここまでは撮った人の権利でした。もうひとつ、写っている人の側の話があります。
文化庁の解説は、肖像権を「自己の氏名や肖像をみだりに他人に公開されない権利で、プライバシー権の一種」と説明したうえで、こう書いています。我が国では法律で「肖像権」や「パブリシティ権」を規定したものはなく、これらの権利は判例によって確立された権利です[10]。
条文がない、というのは大事なところです。「何条までならセーフ」という線がないので、線引きは事情ごとに変わります。ここは断定できる話ではないので、ふたりの手元でできることに絞ります。
- 集合写真をSNSに上げるかどうかは、その場でひとこと聞く。 「あとでSNSに上げてもいいですか」。撮る直前が、いちばん聞きやすいタイミングです。
- [子どもの写っている写真](/guide/kekkonshiki-kozure-guest)は、親御さんに。 本人ではなく、保護者に聞くのが自然です。
- 一部だけ困る人がいたら、公開はやめて共有にする。 見せたい相手だけが見られる場所に置けば、そもそも判断が要りません。
「みんな写っているのだから大丈夫」ではなく、「聞いたから大丈夫」。 手間は数十秒ですが、あとから消してくださいと言われるより、ずっと軽い作業です。
契約前に聞く四つと、当日にする一つ
ここまでを、そのまま使える形にまとめます。難しい交渉ではなく、どれも普通に聞ける質問です。
契約書に書いていない答えは、メールでもらっておくと確実です。担当者が代わっても残ります。
- 1
1. 譲渡ですか、許諾ですか
「データ買い取り」の中身を、権利のことばで確認する。許諾なら、使っていい範囲もあわせて。
- 2
2. SNSやwebに載せてもいいですか
含まれる場合も、加工の可否やクレジット表記などの条件がつくことがあります。
- 3
3. 相談の窓口は、どこですか
会場か、撮影会社か、カメラマン本人か。あとで使い方を相談するときの宛先になります。
- 4
4. 撮った写真を、そちらで使うことはありますか
会場のパンフレットやSNSに載る場合があります。載せてよいか、顔の写り方はどうか、先に決められます。
- 5
5. 当日、集合写真の前にひとこと
「あとでSNSに上げてもいいですか」。写る人に聞けるのは、この一瞬だけです。
答えは契約書か、メールの返信で残しておくと、担当者が代わっても効きます。
ゲストが撮った写真を1か所に集められます。使い道を入口に書いておけるので、あとから確認して回らずに済みます。クレジットカード不要・登録は1分。
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よくある質問
- 撮影料を払っているのに、著作権はこちらに来ないのですか。
- 料金の支払いと著作者が誰かは、別々に決まります。文化庁の解説は、著作物の創作を委託した場合は「料金を支払ったかどうか等にかかわりなく、実際に著作物を創作した『受注者側』が著作者となります」と書いています[7]。そのうえで、著作権は契約で譲り受けることができます[2]。だから「払ったから当然もらえる」ではなく、「契約でどう決めたか」を見るのが正しい順番です。
- 「全データ納品」と書いてあれば、好きに使えますか。
- データを受け取ることと、権利を持つことは別です。納品の範囲を書いた文言なので、そこから使い方までは決まりません。権利のほうは、譲渡(第61条)か許諾(第63条)かで分かれます[2][3]。許諾の場合は、許諾された利用方法と条件の範囲内での利用になります[3]。見積書に権利の記載がないときは、そこだけ質問しておくと安心です。
- 年賀状や内祝いに使うのも、確認が要りますか。
- 契約書に「私的利用は自由」といった記載があれば、そこで足ります。記載がなければ、確認しておくと確実です。著作権法の私的使用の例外は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的とする複製についての規定で[6]、印刷会社に注文する形や配る範囲によっては、この枠の内か外かが変わり得ます。「年賀状に使いたい」と一言伝えれば、たいてい即答してもらえます。
- ゲストが撮った写真を、こちらでアルバムにまとめてもいいですか。
- 撮った本人に権利があるので[1]、集めるときに使い道を伝えておくのがいちばん軽い方法です。「あとでアルバムにまとめます」「SNSには上げません」と入口に書いておけば、送る側も判断できます。あとから一人ずつ確認して回るより、先に一行置くほうが、お互いに楽です。
- 式場が、うちの写真をパンフレットに使いたいと言ってきました。
- 断ってもかまいませんし、条件をつけてもかまいません。写っている人の側の権利(肖像権)は法律に条文がなく、判例によって確立された権利とされています[10]。線がはっきりしない領域なので、使う範囲(媒体・期間・加工の可否)と、ゲストが写った写真を含むかどうかを決めて、書面かメールで残しておくのが確実です。ゲストが写る写真は、ふたりだけでは決められません。
- 動画も、写真と同じに考えていいですか。
- 権利の骨組みは同じです。撮影した側が著作者になり[1]、譲渡か許諾かで使える範囲が決まります[2][3]。ただし動画は音楽が入るぶん、もう一段ややこしくなります。BGMには別の権利者がいるので、そちらは音楽の側の手続きが必要です。詳しくは結婚式のBGMと著作権の記事にまとめてあります。
出典
数字は公開された一次情報から。公的統計・法令の公的解説と、民間調査を区別しています。
- [1]e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第2条第1項第1号(著作物の定義)、第10条第1項(著作物の例示・第8号「写真の著作物」/第7号「映画の著作物」)、第17条(著作者の権利・享有にいかなる方式の履行をも要しない)法令・制度1970
- [2]e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第61条(著作権の譲渡・第27条/第28条の権利が特掲されていないときは譲渡した者に留保されたものと推定)法令・制度1970
- [3]e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第63条(著作物の利用の許諾・許諾に係る利用方法及び条件の範囲内)、第59条(著作者人格権の一身専属性)法令・制度1970
- [4]e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第15条(職務上作成する著作物の著作者)法令・制度1970
- [5]e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第21条(複製権)、第23条(公衆送信権等)法令・制度1970
- [6]e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第30条第1項(私的使用のための複製・個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき)法令・制度1970
- [7]文化庁「著作権テキスト」令和8年度版 p.8(著作物の創作を委託した場合は料金を支払ったかどうか等にかかわりなく実際に創作した受注者側が著作者となる/日常生活で作成したものも定義を満たせば著作物となる)法令・制度2026
- [8]文化庁「著作権テキスト」令和8年度版 p.9(職務著作の要件a〜e)法令・制度2026
- [9]文化庁「著作権テキスト」令和8年度版 p.65(私的使用のための複製の要件・限られた範囲内での使用を目的とすること/使用する本人が複製すること)法令・制度2026
- [10]文化庁「著作権テキスト」令和8年度版 p.108(肖像権・パブリシティ権について、我が国では法律で規定したものはなく判例によって確立された権利)法令・制度2026
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数字は、厚生労働省の人口動態統計などの公的統計と、公開された民間調査の一次情報に基づく目安です(各ページ末尾に出典を明記しています)。地域・会場・時期によって幅があるので、最後はふたりのペースで読み替えてください。