「かける」と「入れる」は、別の権利です
自作ムービーの曲が使えないと言われた。音楽の手続きはどこで詰まるのか
最終更新 2026.08.02約14分出典3件法令3
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プロフィールムービーを自分たちで作ろうとしたら、「その曲は使えません」と言われた。あるいは見積もりに「楽曲使用料」という行が現れた。
腑に落ちない感じが残ります。CDは自分で買ったものです。披露宴で流すだけです。同じ曲が会場でかかっているのを、フェアのときに聞いた気もします。
けれど、会場が意地悪をしているわけでも、その曲だけが特別に厳しいわけでもありません。著作権法では、音楽を「かける」ことと「入れる」ことが、別の行為として扱われているからです。前者は会場側で処理されていることが多く、後者は誰かが手続きをしないと止まります。
この記事は、その線がどこに引かれているかの話です。
「身内の集まりだから」は、どこまで通るのか
まず、多くの人が最初に思うところから確かめます。自分で買ったCDを、自分たちの披露宴で使う。これは「私的使用」ではないのか、という点です。
著作権法は、私的使用のための複製を例外として認めています。条文はこうです。「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的とするときは、使用する本人が複製できる[1]。文化庁の解説も、条件を「個人的に又は家庭内など、限られた範囲内での使用を目的とすること(仕事での利用は対象外)」と書いています[2]。
問題は、披露宴がこの「限られた範囲内」に入るかどうかです。ここで効いてくるのが、著作権法の「公衆」の定義です。「この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする」[1]。招待した人だけが来る場であっても、多数であれば公衆にあたる、という組み立てになっています。
では何人からが「多数」なのか。文化庁は正面から書いています。「何人以上が『多数』かについては、著作物の種類や利用態様によって異なり、一概に何人とはいえません」[2]。そのうえで「特定少数の者」の例として挙げているのは、「電話で話しているときに歌を歌う」「子どもたちが両親の前で劇をする」といった場面です[2]。
つまり、線は人数で決まっていません。それでも、両親の前の劇と、招待状を出して人を集める披露宴の間には、はっきりした隔たりがあります。実務でも、披露宴での利用は私的使用の範囲を出るものとして扱われています。JASRACは、新郎新婦や列席者自身が製作する場合であっても、製作前に手続きを行うよう案内しています[3]。
会場で「かける」ほう ―― 演奏権
音楽を再生することは、著作権法では「演奏」です。第22条は、著作者が「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する」と定めています[1]。
ここで大事なのは、生演奏だけの話ではないことです。文化庁は、この演奏には「CDやDVDなどの『録音物・録画物から音楽や演劇等を再生すること』にも権利が働きます」と書いています[2]。入場のときにCDをかけるのも、法律上は演奏です。
「営利を目的としない上演等」という例外もあります(第38条第1項)。ただし条件は三つ同時です。営利を目的とせず、聴衆又は観衆から料金を受けず、そのうえで実演家等に報酬が支払われないこと[1]。事業として営まれる式場の施設で行われる披露宴で、この三つがそろうとは考えにくいところです。
では誰が処理しているのか。JASRACは事業者向けの案内で、「継続的に利用がある場合、包括契約を締結いただいています」と説明しています[3]。日常的に披露宴を行う会場は、この形で処理していることになります。だから、会場でBGMをかけるところについて、ふたりが個別に何かをする場面はほとんどありません。
詰まるのは、いつも反対側です。
会場でかける(=演奏・第22条)
- 入場・乾杯・歓談中のBGM、生演奏
- CDやデータからの再生も「演奏」に含まれる
- 多くの会場はJASRACと包括契約で処理している
- ふたりが個別に手続きをする場面は少ない
ムービーに入れる(=複製・第21条)
- プロフィールムービー、余興映像、BGMのデータ作成
- 自分たちで作る場合も、製作前の手続きが要る
- 市販音源なら著作隣接権の処理も別に要る
- 曲ごとの申請なので、曲を決めた時点で動く必要がある
どちらが良い・悪いという話ではなく、法律上の行為の種類が違うということ。手続きの窓口も別になります。
ムービーに「入れる」ほう ―― 複製権
映像に音楽を録り込むことは「複製」です。第21条は一行だけの短い条文で、「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する」と定めています[1]。
CDから曲を取り込んで編集ソフトのタイムラインに置く。書き出してデータにする。この一連の作業が複製にあたります。前の節で見たとおり、披露宴で使う目的である以上、私的使用の例外には乗りません。
そしてここが、いちばん誤解されているところです。業者に頼んだ場合だけの話ではありません。 JASRACは、新郎新婦や列席者自身が製作する場合も、製作前に手続きを行うよう明記しています[3]。手作りだから対象外、にはならないということです。
「会場でかけるだけなら会場が処理しているのに、なぜムービーだと別なのか」という感覚のずれは、ここから来ています。かけるのと入れるのが、別の権利だからです。
市販CDだと、通す関門が三つになる
もうひとつ、実務でつまずくのがこの点です。市販のCD音源を使うと、必要な許諾が一つでは済みません。
音楽CDには、性質の違う権利が重なっています。作詞家・作曲家がもつ著作権。歌手や演奏家がもつ実演家の権利(第91条第1項「実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する」)。そして原盤を作ったレコード製作者の権利(第96条「レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する」)[1]。後ろの二つをまとめて著作隣接権と呼びます。
文化庁の説明は明快です。「音楽CDなどをコピーする場合には、作詞家、作曲家等の『著作者』、『レコード製作者』だけでなく、歌手や演奏家などの『実演家』の了解も必要となります」[2]。
JASRACの案内も同じことを、手続きの言葉で書いています。「CDやダウンロードデータなどの市販音源をコピーしたり動画に収録したりする場合、著作権(JASRACなど)と著作隣接権(ブライダルでの音楽利用においては日本レコード協会)について、それぞれ手続きいただく必要があります」[3]。
「JASRACに払えば大丈夫」が通らないのは、このためです。JASRACが扱っているのは著作権であって、原盤の権利ではありません。
著作権(作った人の権利)
- 作詞家・作曲家がもつ
- 複製権(第21条)・演奏権(第22条)など
- ブライダルの窓口はJASRACなど
- 保護期間は著作者の死後70年(第51条第2項)
著作隣接権(音にした人の権利)
- 歌手・演奏家(実演家)とレコード製作者がもつ
- 実演家の録音権(第91条第1項)・レコード製作者の複製権(第96条)
- ブライダルの窓口は日本レコード協会
- レコードの保護期間は発行の翌年から70年(第101条第2項)
著作権法第21条・第91条第1項・第96条より。曲を「作った側」と「音にした側」で、権利者も窓口も別になります。
手続きは、誰がやるのか
JASRACは、この分野の手続きを二本立てで案内しています。「ブライダルシーンでの音楽利用については、映像製作事業者や結婚式場など、事業者の方に手続きいただいています。新郎新婦や列席者自身で録音・録画物を製作する場合などは、個人で手続きいただくこともできます」[3]。事業者の道と、個人の道が別々にあるということです。
事業者の道には、代行の仕組みがあります。「『録音・録画物の製作』については一般社団法人音楽特定利用促進機構(ISUM:アイサム)、『オンライン中継』については一般社団法人ブライダル音楽申請システム(Bmas)が窓口となっています」[3]。この代行団体を通すと、著作権と著作隣接権の二つの権利処理を同時に進められます。ただし条件があります。「ISUM、Bmasを利用するためには、JASRACと包括契約を締結していただく必要があります」[3]。包括契約を結んでいるのは会場や映像業者の側です。
ここに、手作りのふたりがぶつかる一行があります。JASRACは個人向けの案内のなかで、「ISUM(一般社団法人音楽特定利用促進機構)では個人の方の登録を受け付けていません」と注記しています[3]。つまり、ふたりが自分で進める場合、二つの権利をまとめて処理する近道は使えません。 JASRACへの申請は個人専用フォームからできますが、市販音源を使うなら、「市販音源を利用する場合、日本レコード協会の許諾を得てください」という別の手続きが並びます[3]。
個人で申請する場合の使用料の目安も公表されています。動画コンテンツが1曲2,000円、静止画コンテンツ(スライド)が1曲1,000円(歌詞も表示する場合は1曲1,500円)、BGM用CDが1曲1,000円です[3]。ただしこの表には、曲によって金額が変わる注記が付いています。動画コンテンツで特定の音楽出版社が管理を委託する外国曲を使う場合は、「上記の金額に加え、特定音楽出版社が金額を指定する基本使用料(指し値)のお支払いが必要です(静止画コンテンツ、BGM用CDでは必要ありません)」[3]。挙げられているのはショットミュージック・日音・日本アメリカーナ音楽出版・ピアーミュージック・ユニバーサル・ミュージック・パブリッシング(「Walt Disney Music Company」「Wonderland Music Company Inc」などが原出版社の楽曲)です[3]。ディズニーの曲でプロフィールムービーを作るのはよくある選び方です。しかもこの上乗せ分は金額を音楽出版社の側が指定するもので、JASRACの表には載っていません。いくらになるかは、その曲で聞いてみるまで分からないということです。曲を確定させる前に確かめる項目に入れておいてください。さらに「会場または音響・映像製作事業者が製作するコンテンツについて、個人が手続きする場合は、上記と使用料額が異なります」という注記もあります[3]。誰が作ったムービーかで表の適用が変わる、ということです。
日程の見かたにも、間違えやすいところがあります。JASRACの手続きの流れでは、申し込み後「JASRACから許諾書と許諾番号をメールでお送りします(1〜5営業日後)」とあり、その段階で「この時点でJASRAC管理楽曲をご利用いただけます」と書かれています[3]。使えるようになるのは許諾番号が届いた時点で、請求書はその1〜2カ月後に届きます[3]。待ち時間として見るのは1〜5営業日のほうで、1〜2カ月は支払いのサイクルです。ただし全体には「必ず製作前にお手続きを行ってください」という前提が置かれています[3]。編集を終えてから動く順番ではない、ということです。届いた許諾番号は作品に表示することとされていて、「許諾書を結婚式場などに提示する必要がある場合はメールの画面をご提示ください」とも案内されています[3]。当日までメールを消さずに残しておいてください。
ここから実務的な結論が出ます。ふたりがまず決めるのは曲ではなく、「誰が申請するのか」です。 会場発注のムービーなら手続きは含まれているのが普通です。持ち込みなら、映像業者が処理するのか、会場が受けるのか、それとも自分たちで個人申請するのか。自分たちで進めると決めたなら、レコード協会側の手続きが別に立つことまで含めて、編集を始める前に見ておいてください。
- 1
持ち込みムービーが可能か、会場に聞く
可否そのものと、可の場合の条件(提出期限・データ形式・上映確認の有無)を最初に確かめる。ここが決まらないと後の話が動かない。
- 2
音楽の手続きを誰がやるのかを決める
会場が受けるのか、映像業者が処理するのか、ふたりで進めるのか。持ち込みのときにいちばん空きやすい担当なので、口頭でなく書面で残す。
- 3
使いたい曲を先に伝えて、手続きできるか確かめる
曲名・アーティスト名・どの音源か(市販CDか、配信か、自分たちの演奏か)まで具体的に伝える。編集を始める前に確認するほうが手戻りが少ない。
- 4
見積もりの「楽曲使用料」を確かめる
含まれているのか、別途なのか、何曲分なのか。曲数で変わる項目なので、曲を増やしたときに動く金額かどうかも聞いておく。
使いたい曲を伝えてから聞くと、答えが具体的になります。曲名を決めきってから相談すると、やり直しになりやすいところです。
曲を諦めずに済む道も、いくつかあります
手続きが要るという話は、その曲を使えないという話ではありません。順番と音源の選び方で変わる部分があります。
自分たちで演奏・歌った音源を使う。 実演家の権利は「その実演を録音し、又は録画する権利」であり(第91条第1項)、レコード製作者は「レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義されています(第2条第1項第6号)[1]。自分で演奏して自分で録れば、この二つの権利者は自分たちです。ただし作詞・作曲の著作権は残ります。既存の曲を演奏するなら、そこの手続きは別に必要です。
上映のしかたを変える。 映像に音を焼き込まず、上映のときに会場側の音響で曲をかける形にできる場合があります。この形なら、行為としては複製ではなく演奏の側になります。実現できるかは会場の設備と進行次第なので、できるかどうかを聞くところからです。
会場に発注する。 手続きが最初から組み込まれているぶん、確実に進みます。持ち込みより費用が上がることもあれば、持ち込み料と手続きの手間を足すと大きく変わらないこともあります。
どれが向くかは、予算とこだわりどころで変わります。共通して言えるのは、選択肢があるうちに聞いたほうが選べるということだけです。
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よくある質問
- 自分で買ったCDなのに、どうして自由に使えないのですか?
- CDを買って手に入るのは、そのCDという物と、私的な範囲で聴く自由です。曲そのものの権利は移りません。著作権法は私的使用のための複製を例外として認めていますが、その範囲は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」と書かれています[1]。招待した人が集まる披露宴で使うムービーは、この範囲の外にあるものとして扱われています[3]。買ったかどうかではなく、どこで誰に見せるかで変わる、という組み立てです。
- サブスクの音源なら手続きは要りませんか?
- 音源をどこから持ってきたかにかかわらず、ムービーに録り込むこと自体が第21条の複製にあたります[1]。加えて、配信サービスの多くは利用規約で個人の視聴を前提にしており、そこから音を取り出して別の作品に入れることは想定されていません。CDでも配信でも、市販の音源である以上、著作権と著作隣接権の両方の処理が必要になる点は変わりません[3]。
- 会場が作ってくれるムービーなら、何もしなくて大丈夫ですか?
- 多くの場合、手続きは会場や映像業者の側で処理されます。ISUMのような代行の窓口を使えるのは、JASRACと包括契約をしている事業者だからです[3]。とはいえ「たぶん含まれている」で進めると、あとから楽曲使用料が別建てで出てくることがあります。見積もりのどの行に入っているのか、何曲分なのかを、発注のときに一度だけ確かめておくと確実です。
- 自分たちで弾いて歌った音源なら、手続きは要りませんか?
- 実演家とレコード製作者の権利については、自分たちが権利者になります。実演家の権利は自分の実演を録音する権利であり、レコード製作者は「レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義されているからです[1]。ただし、作詞・作曲の著作権は別に残ります。既存の曲を演奏する場合は、その曲の著作権についての手続きが必要です。オリジナル曲を自分たちで作って演奏したなら、全部が自分たちのものになります。
- 作曲家が亡くなって70年たった曲なら、自由に使えますか?
- 著作権の保護期間は著作者の死後70年です(第51条第2項)ので、その曲の著作権は切れています。ただし、演奏を収めた録音物には別の期間が動いています。実演は行われた日の翌年から70年、レコードは発行の翌年から70年です(第101条第2項)[1]。つまり、クラシックの曲でも、最近録音されたCDの音源を使うなら実演家とレコード製作者の権利は生きています。曲が古いことと、音源が自由に使えることは別の話です。
- 当日の様子をあとからSNSに上げるときは、どうなりますか?
- インターネットに上げることは、演奏でも複製でもなく公衆送信(第23条)という別の行為にあたります[1]。BGMがはっきり入った映像を公開する場合は、上映のための手続きとは別の話になります。この記事が扱っているのは当日の会場で使うところまでなので、公開まで考えているなら、その予定も含めて会場や映像業者に伝えて確かめてください。伝えておけば、当日の手続きと一緒に整理してもらえることがあります。
出典
数字は公開された一次情報から。公的統計・法令の公的解説と、民間調査を区別しています。
- [1]e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第2条(定義)・第21条(複製権)・第22条(上演権及び演奏権)・第23条(公衆送信権等)・第30条(私的使用のための複製)・第38条(営利を目的としない上演等)・第51条(保護期間の原則)・第91条(録音権及び録画権)・第96条(複製権)・第101条(実演、レコード、放送又は有線放送の保護期間)法令・制度1970
- [2]文化庁著作権課「著作権テキスト」(「公衆」とは/上演権・演奏権/私的使用のための複製/著作隣接権)法令・制度2024
- [3]一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)「ブライダルシーンでの音楽利用」(利用の具体例/個人による手続き・使用料の目安/音源の確認/事業者による手続き/権利処理事務の代行団体について)法令・制度2025
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数字は、厚生労働省の人口動態統計などの公的統計と、公開された民間調査の一次情報に基づく目安です(各ページ末尾に出典を明記しています)。地域・会場・時期によって幅があるので、最後はふたりのペースで読み替えてください。